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東京地方裁判所 平成9年(ワ)28254号 判決 1999年3月26日

甲事件原告

内田菫子

被告

飯島章二

乙事件原告

住友海上火災保険株式会社

ほか一名

被告

木村正和

主文

以下、甲事件原告を「原告内田」、甲事件被告・乙事件原告を「被告飯島」、乙事件原告を「原告住友海上」、乙事件被告を「被告木村」という。

一  被告飯島は、原告内田に対し、金二一〇五万三一三四円及びこれに対する平成七年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告木村は、被告飯島に対し、金四〇万一二五〇円及びこれに対する平成七年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告木村は、原告住友海上に対し、金八九万五六八九円及びこれに対する平成一〇年五月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告内田、被告飯島及び原告住友海上のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、原告内田に生じた費用及び被告飯島に生じた費用の各五分の二を原告内田の負担とし、原告内田に生じたその余の費用、被告飯島に生じた費用の五分の二及び被告木村に生じた費用の八分の一を被告飯島の負担とし、被告飯島に生じた費用の五分の一、原告住友海上に生じた費用の二分の一及び被告木村に生じた費用の八分の五を被告木村の負担とし、原告住友海上及び被告木村に生じたその余の各費用を原告住友海上の負担とする。

六  この判決は、原告内田、被告飯島及び原告住友海上の各勝訴部分について、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  原告内田の請求

被告飯島は、原告内田に対し、金三三二〇万〇四五七円及びこれに対する平成七年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告飯鳥及び原告住友海上の請求

1  被告木村は、被告飯島に対し、金四五万四七五〇円及びこれに対する平成七年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告木村は、原告住友海上に対し、金一八七万一八四〇円及びこれに対する平成一〇年五月一九日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、信号機の設置された交差点において、右折しようとした普通乗用自動車の左後側部に対向車線を直進してきた自動二輪車が衝突した交通事故について、自動車の後部座席に同乗していて重傷を負った同乗者が自動二輪車の運転者に対し、また、自動二輪車の運転者が自動車の運転者に対し、それぞれ損害賠償を求めるとともに、自動二輪車の運転者と自動車保険契約を締結していた保険会社が、自動車の同乗者に対し、この保険契約に基づき保険金を支払ったとして、自動車の運転者に対し、この求償金の支払を求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠を掲げた事実以外は争いがない。)

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 発生日時 平成七年四月二七日午後六時五〇分ころ

(二) 事故現場 東京都中央区勝どき一丁目七番地七号先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 事故車両 被告飯島が所有して運転していた自動二輪車(習志野き八六〇七、以下「飯島車両」という。)と、被告木村が運転し、原告内田が同乗していた自家用普通乗用自動車(川崎五〇あ六八一二、以下「木村車両」という。)

(四) 事故態様 本件交差点を右折しようとした木村車両と、対向して直進してきた飯島車両が衝突した。

2  責任原因

被告飯島は、飯島車両を保有し、自己のために運行の用に供していたから、自賠法三条に基づき、原告内田に生じた後記損害を賠償する責任がある。

被告木村は、本件交差点を右折するに際して過失があり、民法七〇九条に基づき、被告飯島に生じた損害を賠償する責任がある。

3  原告内田の治療経過

原告は、本件事故により顔面外傷、胸部大動脈損傷、左血気胸、左多発助骨骨折、骨盤骨折、左橈・尺骨骨折、歯牙外傷性亜脱臼などの傷害を負い、次のとおり入通院した(甲二の1・2、三の2~4、四の1~3、五の1・3、六の1・2、七の1~6、八の1~4、九の1~4、一〇の1~4、一一の1~4、一二の1・2、一六の1・2、一七の1・2、一八の1~3、弁論の全趣旨)。

(一) 東京大学医学部附属病院整形外科

入院 平成七年四月二七日から同年六月二日(合計三七日)

通院 平成七年六月三日から平成九年四月一七日(実日数一一日)

(二) 都立台東病院整形外科

入院 平成七年六月二日から同年七月二〇日(合計四九日)

通院 平成七年七月二一日から同年一〇月二四日(実日数二日)

(三) 東京大学医学部附属病院胸部外科

通院 平成七年七月一八日から平成九年二月二五日(実日数六日)

(四) 濱谷歯科医院

通院 平成七年七月三一日から平成九年四月一一日(実日数七〇日)

(五) 麻生病院

通院 平成七年一〇月二七日から平成九年三月二八日(実日数一九一日)

(六) 東京大学医学部附属病院形成外科

通院 平成七年一一月二日から平成九年三月二六日(実日数五日)

入院 平成八年一月二六日から同年二月九日(合計一五日)

(七) 東京大学医学部附属病院分院

通院 平成八年一二月一七日から平成九年二月一八日(実日数四日)

入院 平成九年一月一四日から同年一月二七日(合計一四日)

4  後遺障害の事前認定

原告内田は、自動車保険料率算定会の調査事務所において、各後遺障害が、次のとおり自賠法施行令二条別表の各等級に該当し、併合して第九級の認定を受けた(調査嘱託の結果、弁論の全趣旨)。

(一) 左第五助骨の不全骨折及び第六、第七助骨の完全骨折後の変形治癒が「助骨に著しい変形を残すもの」として第一二級五号

(二) 左胸部左動脈の人工血管置換が、助骨骨折、左横隔膜挙上等と併せて呼吸機能の低下をもたらしていることは否定しがたく、「胸腹部臓器に障害を残すもの」として第一一級一一号

(三) 左橈骨中央部、尺骨遠位部三分の一の骨折部が整復固定された後の肥厚癒合、手根骨部の不整面が母指の可動域へ影響を与えていることが「一手の母指の用を廃したもの」として第一〇級七号

(四) 事故前に八歯存在した歯牙障害(第一二級三号)が一六歯(第一〇級三号)に増加した点で加重障害第一〇級(既存障害第一二級三号)

二  争点

1  被告飯島の過失相殺

(一) 被告木村の主張

被告飯島は、本件交差点に進入するに際し、前方の安全確認を怠った上、制限速度を少なくとも二五キロメートル以上超過する速度で本件交差点に進入した過失がある。そして、本件事故に寄与した被告飯島の過失割合は五〇パーセントを下らない。

(二) 被告飯島及び原告住友海上の反論

被告木村は、木村車両を運転して本件交差点を右折しようとしたのであるから、直進車両の進行を妨害してはならないように進行する注意義務があるのに、対向車線から直進してきた飯島車両の動向に何らの注意も払わず、漫然と本件交差点に進入して飯島車両の進行を妨害した過失がある。そして、本件事故に寄与した被告飯島の過失割合としては、一五パーセントが相当である。

2  原告内田の過失相殺(被害者側の過失)

3  原告内田の後遺障害の程度

4  原告内田の損害額

5  被告飯島の損害額及び原告住友海上の被告木村に対する求償金

第三争点に封する判断

一  被告飯島の過失相殺(争点1)

1  前提となる事実及び証拠(甲二六~三六、原告内田本人、被告木村本人)によれば、本件事故の態様について、次の事実が認められる。

(一) 事故発生場所は、豊海町方面(南西方向)から門前仲町方面(北東方向)へ走る清澄通りと、銀座方面(北西方向)から豊洲方面(南東方向)に走る晴海通りが交差する、市街地の信号機の設置された交差点(本件交差点)である。

清澄通りは、車道部分が幅員二九メートルの平坦な舗装道路であり、時速五〇キロメートルの速度制限があった。事故当時、道路中央部分には、幅員七メートルの地下鉄工事作業帯が存在していたが、本件交差点内では、それが途切れていた。豊海町方面から門前仲町方面へ向かう車線は、四車線であった。また、交差点内には、右折車の進行経路に沿って右折車線が引かれていた。

(二) 被告木村は、平成七年四月二七日午後六時五〇分ころ、原告内田を左後部座席に同乗させて木村車両を運転し、清澄通りを門前仲町方面から豊海町方面に向かって時速約五〇キロメートルで走行し、本件交差点の手前にさしかかった。被告木村は、本件交差点の一〇〇メートルほど手前で対面信号が青色であることを確認し、銀座方面へ向かうために本件交差点を右折しようと考えて減速した。右折車線を走行して本件交差点に進入し、右にハンドルを切り始めると同時に対向車線を確認したが、対向車両を認識しなかったので、そのまま時速約三〇キロメートルで右折進行した。

他方、被告飯島は、清澄通りを豊海町方面から門前仲町方面に向かって地下鉄工事作業帯側から二車線目の車線を走行し、本件交差点を直進して通過するため、時速約六〇キロメートルで加速しながら本件交差点にさしかかった。

(三) 被告飯島は、本件交差点に進入する際、対向車線から右折進行してくる木村車両を発見し、急ブレーキをかけた。被告木村は、本件交差点の中央付近まで進行した結果、対向車線を直進してくる飯島車両に気がつき、驚いてハンドルを右に切りながら加速して通過しようとしたが、間に合わず、飯島車両の前部が、木村車両の左後側部に衝突した。その結果、木村車両は、約一八〇度回転して停止した。

2  この認定事実に対し、被告木村は、本件交差点に進入後、右折進行する前に一時停止し、八〇メートルから一〇〇メートルほど先の対向車線上に飯島車両を発見したが、それよりも先に右折することができると判断して右折を開始したと供述する(被告木村本人)。しかし、被告木村は、実況見分、警察官及び検察官による取調べのいずれにおいても、本件交差点内で一時停止し、八〇メートル以上も先に飯島車両を発見したとは述べていないことと対比すると(甲二八、二九、三四~三六)、被告木村の供述は直ちには採用できない。

なお、八〇メートルから一〇〇メートルほど先ではないものの、被告木村が、本件交差点に進入してまもなく飯島車両に気がつき、これより先に右折しようとして、加速して右折進行したことに沿う証拠(平成八年一月一五日付け実況見分調書、検察官に対する同年一月二六日付け供述調書、甲二九、三六)がある。しかし、被告木村は、本件事故当日に行われた実況見分や警察官による取調べにおいては、対向車が存在しないと思って右折進行したところ、飯島車両に気がつき、回避しようとしたが間に合わなかったとして、まったく異なる説明をしており(甲二八、三四)、このことと対比すると、直ちには採用できない。

3  1の認定事実によれば、被告木村は、幅員の広い本件交差点を右折するのであるから、対向車両の動向を十分に注視し、直進してくる車両の進行を妨害してはならない注意義務があるのに、これを怠り、対向車両の動向を十分に確認することなく漫然と右折進行し、飯島車両の進路を妨害して本件事故を発生させた過失がある。他方、被告飯島も、制限速度を遵守した上、前方を注視し、対向車線から右折進行してくる車両の動向などに留意して本件交差点を進行する注意義務があるのに、これを怠り、加速しながら制限速度を上回る速度で、かつ、前方を十分注視することなく本件交差点に進入し、木村車両の発見が遅れて衝突を回避できなかった過失がある。

この過失の内容、本件事故の態様等の事情を総合すると、本件事故に寄与した被告木村と被告飯島の過失割合は、被告木村が七五パーセント、被告飯島が二五パーセントとするのが相当である。

二  原告内田の過失相殺(被害者側の過失)(争点2)

1  被告飯島は、原告内田と被告木村は、本件事故当時、同じ会社の取締役であり、この会社は、原告の実姉が代表取締役、被告木村の実父が取締役をしている同族会社の一種である上、原告内田と被告木村は、極めて親しい関係にあったから、原告内田との関係において、被告木村の過失は、被害者側の過失として八〇パーセントあるいは八五パーセントが斟酌されるべきであると主張する(被告飯島は、被告木村に対しては、その過失割合を八五パーセントと主張しながら、被害者側の過失としては八〇パーセントが斟酌されるべきであると主張している)。

証拠(甲四三、乙一、原告内田本人、被告木村本人)によれば、原告内田と被告木村は、一四、五年前から一緒に貴金属の製造や卸しの仕事をし、昭和六〇年に貴金属製品の製造及び販売等を目的とした株式会社オゥールを設立したこと、本件事故当時は、いずれも株式会社オゥールの取締役であったこと、本件事故当時の株式会社オゥールの代表取締役は原告内田の姉であり、被告木村の父も取締役であったが、いずれも名目取締役であったこと、被告木村は、木村車両で原告内田を自宅に送ることがあり、本件事故も、その途中に発生したことが認められる。

被告飯島が主張する「極めて親しい関係」がいかなる関係を意味するものか明らかでない。しかし、右の認定事実によれば、原告内田と被告木村の関係は、仕事上のパートナーの域を出ず、身分上はもちろん、生活関係上一体をなす関係とはいえない。したがって、被告木村の過失を原告内田の被害者側の過失として斟酌することはできない。

2  被告飯島は、本件事故の際、原告内田は、被告木村に対し、飯島車両が走行してきていたのに、左はオーライと誤った指示を出した過失があるから、過失相殺として斟酌されるべきであるし、安全確認の点で被告木村と協動関係にあったから、少なくとも、被告木村の過失を被害者側の過失として斟酌すべきであると主張する。

しかし、原告内田は、警察官に対し、左はいつものようにオーライと言ったと思うと述べているにすぎない上(甲三二)、被告木村は、警察官の取調べの段階から、原告がそうした確認をしたとの供述はしておらず、かえって、本人尋問において、それを否定する供述をしていることから、原告内田が、左方の安全を確認したことがよくあったことまでは認めることができても、本件事故の際に、左はオーライと確認したと認めるには、なお足りないというべきである。のみならず、同乗者である原告内田がよく左方の安全を確認していたからといって、それをもって、同乗者にすぎない原告内田が安全確認をする注意義務を負担するとはいえないし、被告木村の注意義務が軽減されるともいえない。したがって、仮に、原告内田が、左方向からの車両の通行状況について誤った確認をしたとしても、これを原告内田自身の過失として斟酌することはできないし、こうした事実関係を前提に、被告木村の過失を被害者側の過失として斟酌まですることは相当でない。

したがって、原告の主張は理由がない。

三  原告内田の後遺障害の程度(争点3)

1  後遺障害の等級について

原告内田は、同人が受けた人工血管置換術は、動脈のうち、切断されて薄い皮がわずかに残った三か所について人工血管を入れた大手術であったもので、左前腕骨骨折後の左手関節の機能障害を加えると、自賠法施行令二条別表の九級に該当するから、他に自算会調査事務所から認定を受けた後遺障害を併せると、併合して八級に該当すると主張する。

この主張する内容は必ずしも明らかではない(大手術であったことが後遺障害の程度にどのように関連すると主張するのか明らかでないし、第九級の何号に該当するというのか、あるいは、併合して第九級に該当するというのかも明らかでない。)。人工血管置換術が大手術であったとしても、これにより血行は確保されている上、人工血管の耐久性についても問題がない(調査嘱託の結果)。原告内田は、この手術により、肋骨付近には激痛もよくあり、背中は物が詰まっているように感じ、左半身は、肩などから鉛を担いでいるように感じているが(原告内田本人)、右の血行の状況等に照らすと、これが、自賠法施行令二条別表第一一級一一号の「胸腹部臓器に障害を残すもの」にとどまらずに、第九級一一号の「胸腹部臓器に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に該当するとまではいえない。また、左手関節の機能障害は、背屈において、健側である右が他動及び自動ともに八五度であるのに対し、他動及び自動ともに七〇度、掌屈において、健側である右が他動及び自動ともに八五度であるのに対し、他動及び自動ともに六〇度であるから(甲一三)、背掌屈において、可動範囲が健側の右と比較して七六パーセント程度に制限されているにとどまる。したがって、この機能障害は、せいぜい第一二級六号の「一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」に該当するにとどまるというべきである。

そうすると、人工血管置換術と左手関節の機能障害を併合したとしても、第九級に該当するとはいえないし、そもそも、これらは、異なる部位に関するものであるから、各後遺障害とは別にこれらのみを併合して後遺障害の程度を考えるのは相当でない。したがって、原告内田の後遺障害は、左手関節の機能障害が第一二級六号に該当することを考慮しても、自算会調査事務所で認定された併合九級にとどまるというべきであって、併合八級に該当する旨の原告の主張は理由がない。

2  労働能力喪失率について

(一) すでに認定した事実及び証拠(甲一三、一四、二二、四三、原告内田本人)によれば、次の事実が認められる。

原告内田(昭和一九年一〇月二一日生)は、平成九年四月一七日までに、東京大学医学部附属病院整形外科などにおいて、症状固定の診断を受けた。その結果残存した第二の一の4記載の後遺障害及び左手関節の機能障害などにより、次のような不都合がある。すなわち、鼻の中心部、左手、肋骨、左足の付け根から膝上などにしびれが残存し、偏頭痛もある。左手の親指が機能しないため、物によっては、持つことができないことがある。肋骨付近には激痛もよくあり、背中は物が詰まっているように感じ、左半身は、肩などから鉛を担いでいるように感じる。呼吸が苦しい時もある。これらの症状は、天候が悪いときは特に良くない。このため、机に向かって前かがみの姿勢を長時間続けることや、片手で宝石、もう一方の手でルーペを持って宝石を検品することができず、パソコンを使用することにも不便を伴う。そして、このような症状や不便のため、いらいらすることが多く精神的にも不安定になることがある。本件事故後は、ずっと休職をしており、平成一〇年二月から六月には会計事務所で一日あたり数時間、経理のアルバイトをしたが、月額一〇万円程度の収入を得ることしかできなかった。

(二) この事実によれば、原告内田は、残存した後遺障害により、労働に相当程度の支障をきたしているということができる。そして、この後遺障害の等級を併せて考えると、原告内田は、症状固定時である五二歳から労働可能期間である六七歳までの一五年間にわたり、平均して三五パーセントの労働能力を喪失したものと判断するのが相当である。

四  原告内田の損害額(争点4)

1  入院雑費(請求額六万三二〇〇円) 六万三二〇〇円

原告内田は、合計一一四日間入院治療を受けたので、入院雑費としては、一日あたり一三〇〇円の一一四日分で一四万八二〇〇円を相当と認める。しかし、原告内田は、このうち八万五〇〇〇円については、すでに被告飯島から支払を受けているから(争いがない)、残額は六万三二〇〇円となる。

2  付添看護費(請求額五一万円) 三八万一五〇〇円

原告内田の姉である丸山明子は、原告内田が平成七年四月二七日から同年七月二〇日までの八五日間、東京大学医学部附属病院及び都立台東病院に入院中、付添看護をした(甲二三の1、原告内田本人)。

医師が近親者の付添看護の必要性を認めていたと認めるに足りる証拠はないが、負傷内容が重度であったことに照らして、看護事故直後から継続して入院していた平成七年七月二〇日までは、近親者の付添看護の必要性があったと認めるのが相当である。そして、右の事情を考慮した上で、付添看護費としては、一日あたり四五〇〇円とするのが相当であるから、八五日間で三八万二五〇〇円となる。

3  付添看護のための交通費(請求額一四万四九四〇円) 認められない

丸山明子は、付添看護のための交通費として一四万四九四〇円を負担したことが認められるが(甲二三の2)、これは、付添看護費で賄われているとするのが相当であるから、付添看護費とは別に、そのための交通費は認められない。

4  医師及び看護婦への謝礼(請求額三万円) 認められない

原告内田が医師及び看護婦に対し、謝礼を支払ったと認めるに足りる証拠はない。

5  将来の治療費等(請求額三七万三八八九円) 慰謝料で考慮する

証拠(甲三七~四三)によれば、原告内田は、人工血管置換手術をしたことから、症状固定後も、定期的に胸部CT、胸部レントゲン、血液検査を行うことが必要であること、平成九年一〇月から一二月にかけて、東京大学医学部附属病院でCT及び血液検査を受けるとともに、その結果を聞くために、合計四回同病院へ通院したこと、その費用は、自宅からの通院費も含めて合計二万三六六〇円かかったこと、平成一〇年一月にもCT検査をしたことが認められる。

原告内田は、こうした検査が生涯にわたって年一回は必要であると主張し、原告内田は、東京大学医学部附属病院の医師からそのように言われたとのことであるが(甲四三)、それについて、診断書等による客観的裏付けはない。したがって、検査が必要とされる頻度及び期間について、厳密な認定は困難であるが、現実に、CT検査については二年続けて行っていることなどの事情を踏まえ、慰謝料において考慮することにする。

6  休業損害(請求額九四六万八四九二円) 八五三万三四七九円

証拠(甲二四、二五の1・2、四三、原告内田本人、被告木村本人)によれば、原告内田は、本件事故当時、株式会社オゥールで経理を担当しており、給与収入の名目で月額四〇万円を得ていたこと、収入の額は、原告内田と被告木村が決算時に話し合って決めていること、原告内田は、平成六年までは月額三〇万円から三五万円程度の収入を得ていたこと、株式会社オゥールでは、原石を購入し、デザインを被告木村が一人で行い、製造はすべて外注して行っていたこと、営業はもっぱら被告木村一人で行っていたこと、株式会社オゥールは、原告内田と被告木村の収入を控除しても利益が出る状況であったが、それは、すべて商品の仕入れなどに回っていたことが認められる。

この認定事実によれば、原告内田は、役員であっても現実に経理業務を行っており、その収入月額四〇万円を、平成七年賃金センサス産業計女子労働者学歴計五〇歳から五四歳の平均収入が年間三五九万三五〇〇円であること(当裁判所に顕著な事実)と対比すれば、その大半は、労務の対価であるということができる。しかしながら、収入月額が前年よりも一五パーセントから三〇パーセントも増額していること、この収入は、原告内田と被告木村が決算時に二人で相談して決めていること、株式会社オゥールの利益は、原告内田と被告木村の収入と商品の仕入れなどにすべて回っていたことに照らすと、役員報酬として利益配当分がまったく含まれていなかったともいえない。したがって、これらの事情を総合すれば、原告内田の年間四八〇万円の収入のうち、少なくともその九〇パーセントに相当する年間四三二万円を労務の対価とするのが相当である。

そして、すでに認定した原告内田の負傷内容、入通院の経過、事故後の稼働状況、症状固定の診断などの事情を総合すれば、原告内田は、本件事故の翌日である平成七年四月二八日から症状固定日である平成九年四月一七日までの七二一日間は一〇〇パーセント労働能力に制限を受けたとするのが相当である。

したがって、これらを前提に原告内田の休業損害を算出すると、八五三万三四七九円(一円未満切り捨て)となる。

4,320,000×721/365=8,533,479

なお、被告飯島は、原告内田は、共同経営者である被告木村が運転する自動車に同乗していて本件事故に遭い、かつ、この事故発生に寄与した過失割合は、被告飯島より被告木村の方が高いのであるから、本来、株式会社オゥールは、原告内田に対して、休業中であっても報酬を支払うのが当然であって、過失割合の小さい被告飯島に対して休業損害を請求するのは信義則に反し、権利の濫用であると主張する。

しかし、すでに検討したように、原告内田の報酬の大半は労務の対価であるから、株式会社オゥールが労務の対価なくして原告内田に報酬を支払う義務があるとはいえない。したがって、共同不法行為者である被告飯島に休業損害を請求することに何らの問題がないことは明白であり、被告飯島の主張は理由がない。

7  逸失利益(請求額二二四一万九九三六円) 一五六九万三九五五円

すでに検討したとおり、原告内田は、本件事故に基づく後遺障害により、五二歳から六七歳までの一五年間にわたり三五パーセントの限度で労働能力を喪失したと認めるのが相当であるから、年間四三二万円の労務の対価分を基礎収入とし、ライプニッツ方式(係数一〇・三七九六)により中間利息を控除すると、一五六九万三九五五円(一円未満切り捨て)となる。

4,320,000×0.35×10.3796=15,693,955

8  慰謝料(請求額一〇〇一万円) 七二〇万円

原告の負傷内容、入通院の経過、後遺障害の内容及び程度、症状固定後も血液検査などの定期検査が必要とされてその費用がかかること、原告内田は、本件事故当時も含め、木村車両に同乗して被告木村に自宅へ送ってもらうことがあり、その際には、左方向の確認をすることもあったことなど一切の事情を総合すると、原告の慰謝料としては、七二〇万円を相当と認める。

9  損害のてん補

1、2、6ないし8の損害総額三一八七万三一三四円のうち、原告内田は、被告飯島及び被告木村が加入していた自賠責保険から一二三二万円(各六一六万円)、被告飯島から五〇万円の支払を受けた(争いがない、ただし、自賠責保険からの支払が、被告飯島と被告木村がそれぞれ加入していたものからであることと、その各金額については弁論の全趣旨)。したがって、原告内田の損害残額は、一九〇五万三一三四円となる。

10  弁護士費用(請求額三〇〇万円) 二〇〇万円

審理の経過、認容額などの事情に照らすと、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、二〇〇万円を相当と認める。

五  被告飯島の損害額及び原告住友海上の保険代位(争点5)

1  被告飯島の車両損害及びレッカー代(請求額四五万四七五〇円) 四〇万一二五〇円

飯島車両は本件事故により修理代として八三万八七〇〇円を要する損傷を被った(乙二、四)。しかし、この車両の本件事故当時の時価は四八万円であったから(乙三)、被告飯島は、いわゆる経済的全損として四八万円の車両損害を被ったということができる。また、被告飯島は、飯島車両をレッカー移動させたため、レッカー代金として五万五〇〇〇円を負担した(乙二)。

この合計額五三万五〇〇〇円に被告飯島の過失割合である二五パーセントに相当する額を控除すると、四〇万一二五〇円となる。

2  原告住友海上の被告木村に対する求償金(請求額一八七万一八四〇円) 八九万五六八九円

原告住友海上は、平成六年八月三日、被告飯島との間に、保険期間を同日から平成七年八月三日、対人無制限の自動車保険契約を締結した(乙六)。

原告内田は、本件事故により、既に認定した損害のほかに、治療費として四二五万四六四〇円、通院交通費として一九万八九九〇円、入院雑費八万五〇〇〇円の合計四五三万八六三〇円(すでに支払済みとして損害額から控除した分)の損害を被った(乙八の1、弁論の全趣旨、なお、原告住友海上が主張する株式会社アシストに対する文書料等九〇三五円については、原告内田が負担したと認めるには足りない。)。これを第三の四の1、2、6ないし8の総額である三一八七万三一三四円に加えると、原告内田の損害総額は三六四一万一七六四円となる。これに被告飯島の過失割合である二五パーセントを乗じて被告飯島の負担割合に相当する額を算出すると、九一〇万二九四一円となる。そして、被告飯島が加入していた自賠責保険から原告内田に対して六一六万円が支払われたほかに、原告住友海上は、被告飯島との自動車保険契約に基づき、原告内田に対し、平成九年五月七日までに、治療費等として、五〇三万八六三〇円(右の合計四五三万八六三〇円に内金五〇万円を加えた額)を支払った(乙七の1~7、なお、原告住友海上は、二二〇万二一六五円を内払いしたと主張している部分もあるが、他方で、自賠責保険以外の既払金が五〇四万七六六五円と主張しており、これは、すべて原告住友海上が支払った旨の主張と理解することができる。)。したがって、被告飯島は、すでに負担部分を超える支払をしたことになるから、原告住友海上は、それを超える二〇九万五六八九円について、被告木村に対し求償をすることができる。ところが、原告住友海上は、被告木村が加入していた自賠責保険から一二〇万円の支払をすでに受けているから(乙五、弁論の全趣旨)、それを控除すると、残額は八九万五六八九円となる。

第四結論

以上によれば、原告内田、被告飯島、原告住友海上の請求は、いずれも次の支払を求める限度で理由がある。

1  原告内田

不法行為に基づく損害金として二一〇五万三一三四円及びこれに対する平成七年四月二七日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

2  被告飯島

不法行為に基づく損害金として四〇万一二五〇円及びこれに対する平成七年四月二七日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

3  原告住友海上

求償金として八九万五六八九円及びこれに対する平成一〇年五月一九日(保険金を支払った以降の日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(裁判官 山崎秀尚)

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